HARD BOILED CAFE

ハードボイルド探偵小説に関する本の紹介。チャンドラーの翻訳にまつわるエッセイ等。

2017-05-01から1ヶ月間の記事一覧

『大いなる眠り』註解 第七章(2)

《部屋の片端の低い壇のような物の上に、高い背凭れのチーク材の椅子があり、そこにミス・カーメン・スターンウッドが、房飾りのついたオレンジ色のショールを敷いて座っていた。やけに真っ直ぐに座り、両手は椅子の肘掛けに置き、両膝を閉じていた。背筋を…

『大いなる眠り』註解 第七章(1)

《横長の部屋だった。家の間口全部を使っている。低い天井は梁を見せ、茶色の漆喰壁は、鏤められた中国の刺繡や木目を浮かせた額に入れた中国と日本の版画で飾り立てられていた。低い書棚が並び、その中でならホリネズミが鼻も出さずに一週間過ごせそうなく…

『大いなる眠り』第六章(7)

《私は橋の横についている柵を跨ぎ、フレンチ・ウィンドウの方に身を乗り出した。厚手のカーテンが引かれていたが網戸はついていない。カーテンの合わせ目から中を覗いてみた。壁のランプの明かりと書棚の片隅が見えた。私は橋に戻り、垣根のところまで行く…

『大いなる眠り』第六章(6)

《ドアの前には細い溝があり、家の壁と崖の縁の間に歩道橋のようなものが架かっていた。ポーチも堅い地面もなく、背後に回る道もなかった。裏口は下の小路めいた通りに通じる木製の階段を上ったところにあった。裏口があることは知っていた。階段を踏んで降…

『大いなる眠り』第六章(5)

《私はドアポケットから懐中電灯を取り出すと、坂を下って車を見に行った。パッカードのコンバーティブルで、色はえび茶か、こげ茶色。左側の窓が開いていた。免許証ホルダーを探って、明かりをつけた。登録証は、ウェスト・ハリウッド、アルタ・ブレア・ク…

『大いなる眠り』第六章(4)

《ガイガーは車のライトを点けていた。私は消していた。曲がり角のところで速度を上げて追い越すとき、家の番号を頭に入れた。ブロックの終点まで行って引き返した。彼はすでに車を停めていた。下向きにされた車のライトが小さな家の車庫を照らしていた。四…

『大いなる眠り』第六章(3)

《クーペは大通りを西へ向かった。私は急な左折を強いられて、多くの車を敵に回した。一人の運転手など雨の中に頭を突き出し、私を怒鳴りつけた。やっと追いついたときには、クーペから二ブロックばかり遅れていた。私はガイガーが家に帰ると信じていた。二…

『大いなる眠り』第六章(2)

《また一時間が過ぎた。暗くなり、雨にけぶった店の灯が街路の暗がりに吸い込まれていった。路面電車の鐘が不機嫌な音を響かせた。五時十五分頃、革の胴着を着た長身の若者が、傘を手にガイガーの店から出てきて、クリーム色のクーペを取りに行った。彼が店…

『大いなる眠り』第六章(1)

《雨は排水溝を溢れ、歩道の外れでは膝の高さまではねていた。雨合羽を銃身のように黒光りさせた長身の警官たちが、笑い声をあげる少女たちを抱いて水たまりを渡らせるのを楽しんでいた。雨は激しく車の幌をたたき、バーバンク革の屋根が漏れはじめた。車の…

『大いなる眠り』第五章(2)

《私は財布を開き、裏蓋に留めたバッジがよく見えるように女の机の上に置いた。彼女はそれを見て、眼鏡をはずすと椅子の背にもたれた。私は財布を元に戻した。彼女は知的なユダヤ人らしい洗練された顔をしていた。私をじっと見つめ、何も言わなかった。 私は…