HARD BOILED CAFE

ハードボイルド探偵小説に関する本の紹介。チャンドラーの翻訳にまつわるエッセイ等。

2017-07-01から1ヶ月間の記事一覧

『大いなる眠り』註解 第十一章(1)

《彼女は茶色がかった斑入りのツイードを着て、男っぽいシャツの上にタイを絞め、職人の手になるウォーキング・シューズを履いていた。透き通るようなストッキングは前日同様だったが、脚の露出は多くなかった。黒い髪は帽子の下で輝いていた。五十ドルはす…

『大いなる眠り』註解 第十章(3)

《しばらくして私は言った。「重さに気をつけてくれよ。そいつは半トンまでしか試してないんだ。その代物、どこに運ぶんだ?」 「ブロディ。405号室だ」彼はうなった。「あんた管理人か?」 「そうだ。戦利品の山みたいだな」 彼は白目がちの薄青い眼で私…

『大いなる眠り』註解 第十章(2)

《私は店を出て、大通りを西に向かい、角を北に折れ、店の裏側を走る小路に出た。黒い小型トラックがガイガーの店の裏をふさいでいた。荷台の側板は金網で、字は書いてない。新品のオーバーオールを着た男が尾板の上に箱を持ち上げていた。私は大通りへ引き…

『大いなる眠り』註解 第十章(1)

《長身で黒い眼をした掛売りの宝石商は、入口の同じ位置に昨日の午後のように立っていた。中に入ろうとする私に同じように訳知り顔をしてみせた。店は昨日と同じだった。同じランプが角の小さな机の上に点り、同じ黒いスウェードに似たドレスを着た、同じア…

『大いなる眠り』註解 第九章(6)

《オールズは顎を私の方に向けて言った。「彼を知ってるのか?」 「ああ。スターンウッド家の運転手だ。昨日まさにあの車を磨いてるところを見かけた」 「せっつく気はないんだがな、マーロウ。教えてくれ。仕事は彼に何か関係があったのか?」 「いや、彼の…

『大いなる眠り』註解 第九章(5)

《眼鏡をかけて疲れた顔をした小男が黒い鞄を下げ、桟橋を降りてきた。彼は甲板のまずまず清潔な場所を探し当て、そこに鞄を置いた。それから帽子を脱ぎ、首の後ろをこすりながら海を眺めた。まるで何をするためにここに来たのかを知らないかのように。 オー…

『大いなる眠り』註解 第九章(4)

《「あそこから落ちたんですよ。かなりの衝撃だったにちがいない。雨はこの辺では早いうちにやんでます。午後九時頃でしょう。壊れた木の内側は乾いている。これは雨がやんだ後を示しています。水位のある時に落ちたので、ひどく壊れてはいません。潮が半分…

『大いなる眠り』註解 第九章(3)

《彼はドアに鍵をかけ、職員用駐車場に降りると、小さなブルーのセダンに乗り込んだ。我々はサイレンを鳴らして信号を無視し、サンセット・ブルバードを駆け抜けた。爽やかな朝だった。人生をシンプルで甘美なものに思わせるに足る活気が漂っていた。もし胸…

『大いなる眠り』註解 第九章(2)

《ひげを剃り、服を着、軽い朝食をとり、一時間も経たないうちに、私は裁判所にいた。エレベーターで七階まで上がり、地方検事局員の使っている小さなオフィスの並びに沿って進んだ。オールズの部屋も同じくらい狭かったが彼の専用だった。机の上は吸取器と…