HARD BOILED CAFE

ハードボイルド探偵小説に関する本の紹介。チャンドラーの翻訳にまつわるエッセイ等。

2019-02-01から1ヶ月間の記事一覧

『さらば愛しき女よ』を読み比べるー第12章(2)

《「少し遡って考えてみようか?」彼は言った。「誰かがマリオットとその女を襲い、翡翠のネックレスその他を強奪した後、推定価格よりかなり安価と思われる値での売却を持ちかける。マリオットが支払いの交渉にあたり、自分一人でやると言い出した。相手が…

『さらば愛しき女よ』を読み比べるー第12章(1)

12 《一時間半後。死体は運び去られ、あたり一帯は入念に調べられ、私は同じ話を三回か四回繰り返させられた。我々は四人で、西ロサンジェルス警察署の当直警部の部屋に腰をおろしていた。早朝ダウンタウンの裁判所に送られるのを待つ、酔っ払いが独房でオー…

『さらば愛しき女よ』を読み比べる―第11章(2)

《明かりが地面に垂れていた。私は財布を戻し、ペンシル・ライトをポケットにクリップで留めると、とっさに女がまだ懐中電灯と同じ手に持っていた小さな拳銃に手を伸ばした。女は懐中電灯を落とし、私は銃を手にした。女がさっと身を引いたので、私はかがみ…

『さらば愛しき女よ』を読み比べるー第十一章(1)

11 《坂道を半分ほど登ったところで、右の方に目をやると左足が見えた。女は懐中電灯をそちらに振った。それで、全身が見えた。坂を下りてくるとき、当然見ているはずだった。だが、そのとき私は地面の上にかがみ込み、白銅貨(クォーター)大のペンシル・ラ…

『さらば愛しき女よ』を読み比べるー第十章(3)

《「そこを動かないで」娘が腹立たし気に言ったのは、私が足をとめてからだった。「あなたは誰なの?」「君の銃を見てみたい」娘は光の前に掲げて見せた。銃口は私の腹に向けられていた。小さな銃だった。コルト・ベスト・ポケットのようだ。「なんだ、それ…

『さらば愛しき女よ』を読み比べるー第十章(2)

《車が停まっていた場所に行き、ポケットから万年筆型懐中電灯を取り出し、小さな光で地面を調べた。土壌は赤色ロームで、乾燥すると非常に固くなるが、乾上るほどの気候ではなかった。少し霧がかかっていて、地面は車の停まっていた跡を残す程度の湿気を帯…