HARD BOILED CAFE

ハードボイルド探偵小説に関する本の紹介。チャンドラーの翻訳にまつわるエッセイ等。

2019-08-01から1ヶ月間の記事一覧

『さらば愛しき女よ』を読み比べるー第25章(1)

動いていないはずの煙に<up and down>が使われる理由 【訳文】 《部屋は煙でいっぱいだった。 あたりには煙が本当に漂っていた。小さな透明のビーズでできたカーテンのように真っ直ぐな細い列になって。突き当りの壁にある窓は二つとも開いているようだが…

『さらば愛しき女よ』を読み比べるー第24章

<backseat>には、「つまらない地位」という裏の意味がある 【訳文】 《エレベーターで下まで降り、狭い廊下を抜け、黒いドアから外に出た。外気は爽やかに澄みきっていた。海霧も流れてこない高さだった。私は深く息を吸った。 大男はまだ私の腕をつかんで…

『さらば愛しき女よ』を読み比べるー第23章

いくらタフでも、喉が「肉挽機」を通ったら、元に戻りそうにない。 【訳文】 《「おい」大男が言った。「そろそろ潮時だ」私は目を開けて、体を起こした。「河岸を変えようじゃないか、なあ」 私は立ち上がった。まだ夢見心地だった。我々はドアを通ってどこ…

『さらば愛しき女よ』を読み比べるー第22章

―格闘の最中に、突然、市役所が出てくる理由とは― 【訳文】 《スツールを蹴って立ち上がり、脇の下のホルスターから銃を抜いた。いい手際とは言えなかった。上着にはボタンがかかっていたし、手早くもなかった。もし誰かを撃つことになったら、どっちみち私…

『さらば愛しき女よ』を読み比べるー第21章(4)

―にらんで相手の目を背けさせることができなかったのは何故か― 【訳文】《軽口は関心を引けなかった。テーブルを叩く音は続いていた。私はこつこつという音に耳を傾けた。何かが気に入らなかった。まるで暗号のようだった。彼は叩くのをやめ、腕を組み、背凭…

『さらば愛しき女よ』を読み比べるー第21章(3)

―どうして村上氏は原文にない「死者」を訳に付け足したのだろう― 【訳文】 《「どうしてそうなったのか知りたいという訳か?」「そうだ。こちらが百ドル払わなきゃいけないくらいだ」「その必要はない。答えは簡単だ。私の知らないこともある。これはそのひ…