HARD BOILED CAFE

ハードボイルド探偵小説に関する本の紹介。チャンドラーの翻訳にまつわるエッセイ等。

四冊の『長い別れ』を読む

“get a lot of business”は「もうかる」という意味

【訳文】

重罪犯監房棟の三号監房には寝台が二つ、寝台車(プルマン)スタイルでついていたが、混みあっていないようで房を独り占めできた。重罪犯監房の待遇は上々だ。特に不潔でも清潔でもない毛布が二枚と格子状に交差した金属板の上に敷かれた厚さ二インチほどのごつごつしたマットレス。水洗式便器、洗面台、ペーパータオル、ざらざらした灰色の石鹸もある。監房は清潔で消毒臭もしない。模範囚の仕事だ。模範囚の成りてはいくらでもいる。

新入りをチェックする看守たちの眼は確かだ。酔っ払いや異常者、あるいはその手の振る舞いをしない限り、マッチと煙草は持っていていい。予審までは私服だが、その後はお仕着せのデニムを着せられ、ネクタイもベルトも靴ひももなしだ。寝台に座って待つ。それ以外にすることはない。

トラ箱のほうはこれほどよくない。寝台もなく椅子もなし、毛布も何もない。コンクリートの床で寝る。便器に腰掛け、自分の膝で吐く。みじめ極まりない。前に見たことがある。

昼間だというのに、天井には明かりがついていた。監房の鉄扉には覗き穴があり、籠状に編んだ鉄格子で蓋われている。明かりは鉄扉の外側で点滅される。それは午後九時に消えた。誰かがやってきて、声をかけたりもしない。新聞や雑誌を読んでいて、文章の途中で消えることもある。警告もスイッチの音もなく、いきなり闇が訪れる。その後は夏の夜明けが迫るまで、眠るより他にすることはない。眠れればの話だ。煙草を持っていたら吸うのもいい。考えごとをするのもいい。何も考えないより、まだましだと思うようなことがあればだが。

留置場のなかでは、人は人格を持たない。些細な処理問題であり、報告書に記載されているいくつかの項目でしかない。誰に愛されていようが憎まれていようが、どんな顔をしていて、どんな人生を送ってきたかなどということは、誰も気にしない。面倒を起こさない限り、放っておかれる。虐待もされない。求められているのは、おとなしく定められた監房に行き、そこに着いたら静かにしていることだけだ。争う相手もいなければ、腹を立てることもない。看守たちは穏やかで、敵意や嗜虐趣味とは無縁な人たちだ。よく本に書いてある、男たちが怒鳴ったり叫んだり、鉄格子を叩いたり、格子に沿ってスプーンを滑らせたり、看守が警棒を持って駆けつけたりするのは、すべて大きな刑務所の話だ。ちゃんとした留置場は世界中で最も静かな場所のひとつだ。夜中に平均的な監房棟を歩いていて、鉄格子の隙間から見ることができるのは、茶色い毛布のかたまりや、頭と髪の毛、何も見ていない一対の目くらいのものだ。いびきが聞こえるかもしれない。ごくまれに悪夢にうなされるうめき声を耳にするかもしれない。留置場のなかの人生は宙ぶらりんで、目的と意味を欠いている。他の房では、眠れない者や、眠ろうとさえしない者を目にするかもしれない。そういうのは寝台の端に、何もしないで腰掛けている。こっちが見れば、向こうも見返してくるかもしれない。しかし、向こうも何も言わないし、こっちも何も言わない。話すことがないのだ。

監房棟の隅にもうひとつ鉄扉がある場合がある。それは面通し用の小部屋に通じている。一方の壁には黒く塗られた金網が張られている。背後の壁には身長を示す線が引いてある。頭上には投光照明がついている。通例、朝が来て夜勤の主任が非番になる直前、そこに入れられる。身長をはかる線を背にして立ち、まばゆい光を浴びる。金網の向こうに明かりはないが、そこには多くの人々がいる。警官、刑事、強盗や暴行を受けたり、詐欺にあったり、銃で脅されて車を奪われたり、老後の貯えを騙し取られたりした人々だ。こちらからは何も見えず、聞こえもしない。聞こえるのは夜勤の主任の大きくはっきりとした声だ。まるで芸をするために仕込まれた犬の能力を試すように人を扱う。疲れていて冷笑的で有能だ。史上最長のロングラン公演の舞台監督なのだが、本人はとうに仕事に興味を失くしている。

「よし、おまえ。まっすぐ立て。腹を引っ込めろ。顎を引け。背筋を伸ばせ。頭を起こせ。まっすぐ前を見ろ。左を向け。右を向け。もう一度前を見て両手を広げろ。手のひらを上に。手のひらを下に。袖をまくれ。傷跡はなし。髪はダークブラウン、一部に白髪あり。眼は茶色。身長は六フィート二分の一インチ。体重およそ百九十ポンド。名前はフィリップ・マーロウ。職業は私立探偵。これはこれは、はじめまして、マーロウ。行ってよし。次」

どうもありがとう、主任。時間を割いてくれたことに感謝する。が、あんたは私の口を開かせるのを忘れた。私の歯の詰め物はどれも上等で、そのうちの一本にはセラミックの歯冠をかぶせてある。八十七ドルもするポーセレンの歯冠だ。鼻の中をのぞくのも忘れたな、主任。たいそうな量の瘢痕組織があんたを待ってたんだが。鼻中隔手術を受けたんだが医者がへぼだった。当時は二時間かかった。今では二十分で済むそうだ。フットボールの試合でやったんだ、主任。パントをブロックしようとしてちょっとタイミングを誤った。ブロックしたのはキッカーの脚でね、ボールを蹴ったすぐ後だ。十五ヤードのペナルティで、手術の翌日、鼻から 一インチずつ引き抜かれた血まみれのごわごわした包帯がちょうど同じくらいだった。自慢してるわけじゃない、主任。本当なんだって。そういう細々したことが大事なんだ。

三日目の午前中に看守がやってきて、私は監房から出された。

「おまえの弁護士が来ている。煙草を消せ――床で踏み消すんじゃないぞ」

私は吸い殻を便器に流した。面会室に連れて行かれた。長身で色白、黒髪の男が立って窓の外を見ていた。テーブルの上に膨らんだ茶色のブリーフケースがのっている。男がこちらを振り向いた。彼は扉が閉まるのを待った。そして、疵だらけのオーク材のテーブルの向こう側、ブリーフケースの近くに腰を下ろした。ノアの箱舟から引っ張り出してきたような代物だ。ノアは中古で買ったのだろう。弁護士は打ち出し細工の銀のシガレット・ケースを開いて自分の前に置き、私を見た。

「かけたまえ、マーロウ。煙草はどうかな? 私の名前はエンディコット。スーウェル・エンディコットだ。きみの代理人を務めるように指示された。きみは一切の費用を払わなくていい。こんなところはさっさと出たいだろう?」

私は腰を下ろし、煙草を一本取った。彼はライターを差し出した。

「またお会いできて何よりです。ミスタ・エンディコット。以前にもお会いしたことがあります。あなたが地方検事だったときに」

彼はうなずいた。「覚えていないが、そんなこともあったかもしれない」彼はかすかに微笑んだ。「あの仕事は私に向いていなかった。私にはどうも覇気が足りないようだ」

「誰があなたを差し向けたんですか?」

「それは明かせない。私を弁護士として受け入れてもらえれば、費用は向こうが払う」

「彼が捕まったということですね」

彼は私をじっと見つめた。私は煙草をふかした。フィルターつきの煙草にありがちな、高地の霧を脱脂綿で濾したような味がした。

「レノックスのことなら」と彼は言った。「もちろんそうにちがいないだろうが、いや、彼は捕まっていない」

「よくわからないな、ミスタ・エンディコット。だったら誰があなたを寄越したんだ」

「本人は匿名を望んでいる。それが依頼人の特権でね。私を受け入れるかな?」

「どうかな」と私は言った。「テリーが捕まっていないなら、なぜ私をここに留めておくんだ? 誰も私に何も訊かないし、近寄ってさえ来ない」

彼は眉をひそめ、長くて白い繊細な指を見おろした。「この件は、スプリンガー地方検事が個人的に担当している。彼は忙しすぎて、まだきみを尋問していないのかもしれない。しかし、きみには罪状認否と予備審問を受ける権利がある。人身保護手続きによる保釈も可能だ。きみは法律がどういうものか知っているだろう」

「私は殺人の容疑で拘束されている」

彼は苛立たし気に肩をすくめた。「そんなものはどうとでもなる。たとえばピッツバーグへ移動したという容疑で逮捕するとか、いろいろな罪状が考えられる。おそらく彼らが考えてるのは事後従犯だろう。きみはレノックスをどこかに連れて行った、そうじゃないか?」

私は何も答えなかった。味のしない煙草を床に捨て、足で踏んだ。エンディコットはまた肩をすくめ、眉をひそめた。

「話を進めるうえで、仮にきみがそうしたとしよう。事後従犯とするには意図を証明しなければならない。この場合、犯罪が行われ、レノックスが逃げたことを、きみが知っていたことを意味する。いずれにしても保釈可能だ。もちろん、本当のところきみは重要参考人だ。しかし、この州では、裁判所の命令なくしては重要参考人として拘留することはできない。判事がそう認めない限り誰も重要参考人ではない。しかし、法執行機関に属する連中は、いつでもやりたいことをやる方法を見つけることができる」

「ああ」私は言った。「デイトンという刑事は私を殴った。殺人課課長のグレゴリアスはコーヒーを浴びせ、動脈が切れそうになるくらい首を強打した。 まだ腫れているのがわかるだろう。そしてオルブライト本部長から電話がかかってきて、 私をやつの言う解体業者に引き渡せなくなると、やつは私の顔に唾を吐いた。あなたの言う通りだ。ミスタ・エンディコット。警察の連中はいつでもやりたい放題だ」

彼はわざとらしく腕時計に目をやった。「保釈金を払って出たいんじゃないのか?」

「ありがたいが、保釈はやめておこう。保釈で出た男は世間では半分有罪だ。後で釈放されても、腕のいい弁護士の手柄にされてしまう」

「そいつは馬鹿げている」と彼は苛立たしげに言った。

「なるほど、馬鹿げている。私は馬鹿だ。そうでなければ、こんなところにいやしない。レノックスと連絡を取っているなら、 私のことで気を使わないように言ってくれ。私は彼のためにここにいるんじゃない。自分のためにここにいるんだ。文句はない。仕事の一部だ。私の仕事は、人々がトラブルを抱えて私のところに来ることで成り立っている。大きなトラブルも小さなトラブルもあるが、どれも警察には相談したくないトラブルだ。警察のバッジをつけたごろつきに脅されて何もかも吐いたりしたら、誰が私を頼ってくれる?.」

「言いたいことはわかった」と彼はゆっくり言った。「ただひとつだけ訂正しておきたい。私はレノックスと連絡を取っていない。彼のことはよく知らない。私はすべての弁護士がそうであるように法の番人だ。もしレノックスの居場所を知っていたら、地方検事にその情報を隠すことはできない。私にできることは、指定された時間と場所で身柄を引き渡すことを取り決めた後で、彼と会って話すことぐらいだ」

「私を助けるためにわざわざあなたをここに寄越す者を他には思いつかない」

「私を嘘つき呼ばわりするのか?」彼は手を下に伸ばし、テーブルの裏側で煙草の吸い殻を揉み消した。

「たしかあなたはヴァージニアの出身でしたね、ミスタ・エンディコット。この国にはヴァージニア人に関して昔から強い思い入れがある。我々はヴァージニア人を南部の騎士道精神と名誉の精粋であると思っています」

彼は微笑んだ。「よく言った。それが本当だといいのだが。しかし、私たちは時間を無駄にしている。もしきみにこれっぽっちでも分別があれば、ここ一週間はレノックスと会っていないということもできた。事実でなくても構わない。宣誓をしたらいくらでも事実が言える。警官に嘘を言ってはならないという法はない。彼らもそうしてほしいはずだ。黙秘されるより嘘を言われる方がましだろう。黙秘は権威に対する直接的な挑戦だ。そんなことをして何が得られると思っているんだ?」

私はそれには答えなかった。本当のところ答えの持ち合わせがなかった。彼は立ち上がり、帽子に手を伸ばすと、シガレット・ケースの蓋をぱちんと閉じてポケットに入れた。

「きみとしては派手に立ちまわる必要があった」と彼は冷やかに言った。「権利を振りかざし、法を説いた。ずいぶんとうぶなまねをするじゃないか、マーロウ。きみのような男ならもっと他にやりようがあったろうに。法は正義ではない。きわめて不完全なメカニズムだ。まちがえずに正しいボタンを押して、そのうえ運がよければ、正義が姿を現すかも知れない。メカニズムが法の意図するすべてなのだ。察するに、きみは助けがいるような気分じゃなさそうだ。今日のところは帰るとするよ。気が変わったらいつでも連絡をくれ」

「あと一日か二日、がんばってみます。もしテリーを捕まえたら、彼がどうやって逃げたかなど問題にもならない。彼らが気にかけるのは裁判を派手なショーに仕立てることだ。ハーラン・ポッターの娘が殺されたとなれば国じゅうで話題騒然だ。スプリンガーのような受け狙いは、そのショーで検事総長に名乗りを上げ、そこから知事の椅子を窺い、さらに――」私は話すのをやめ、残りは宙に漂わせた。

エンディコットは人を小馬鹿にしたような笑みをゆっくりと浮かべた。「きみはハーラン・ポッターという人物をよくわかっていないようだね」と彼は言った。

「レノックスを捕まえられなかったら、彼がどうやって逃げたかを知りたがるとは思えません、ミスタ・エンディコット。連中はすぐにでも奇麗さっぱり忘れてしまいたいでしょう」

「すべてお見通しってわけか、マーロウ?」

「時間だけはたっぷりあって。ハーラン・ポッターについて私が知っているのは一億ドルの資産家で、九つか十の新聞社を所有していることくらいだ。報道はどうなってるんです?」

「報道?」そう言う彼の声は氷のように冷たかった。

「ああ、どの新聞も私にインタビューしにこない。この件で新聞が大騒ぎすると思っていたのに。客が押し寄せるぞって。私立探偵、仲間を裏切るより、あえて監獄行きを選ぶ」

彼はドアのところに歩いて行き、ノブに手をかけた。「きみは愉快な男だな、マーロウ。幾らか子どもっぽいところはあるにせよ、その通り、一億ドルあれば大量の報道が買える。ねえきみ、それはまた、抜け目なく使えば大量の沈黙を買えるということだよ」

彼はドアを開けて出て行った。そのあと、看守が来て、私を重罪監房棟三号監房に連れ戻した。

「エンディコットがついてるなら、ここにいるのも長くないだろう」彼は扉に鍵をかけながら明るく言った。だといいな、と私は言った。

【解説】

第八章は収監されたマーロウによる留置場の説明が続く。その中に“The jail deputy”あるいは単に“deputy”と呼ばれる役職名がたびたび登場する。清水、村上訳では「看守」、田口訳では「保安官補」となっている。“deputy”は「副(官)、代理(人)」を表すので、こう訳したのだろうが、「保安官代理」は“deputy sheriff”である。警察官と刑務官では職業上の領域が異なる。留置場の看守を保安官補が務めるというのもおかしな話だ。「看守」でいいのではなかろうか。

一通り留置場の説明がおわると、面通し用の部屋で演じられる一幕劇に移る。その際にマーロウが聞く命令の冒頭だ。

"All right. you. Stand straight. Pull your belly in. Pull your chin in. Keep your shoulders back.”

清水訳では「こんどはお前だ。からだをまっすぐに。腹をへこませろ。あご(傍点二字)をひいて。肩をそらせろ」になっている。

村上訳は「よし、お前。背筋を伸ばせ。腹を引っ込めろ。顎をまっすぐ引くんだ。肩はもっと後ろに」。田口訳は「よし、おまえ。背筋を伸ばして立て。腹を引っ込めろ。顎を引け。猫背になるな」

“Stand straight”は、「まっすぐに立つ」ことだ。それを村上、田口両氏の訳に「背筋を伸ばせ」とするから、後に出てくる“Keep your shoulders back”が、「肩をそらせろ」、「肩はもっと後ろに」、「猫背になるな」のような訳になる。ふつう“Keep your shoulders back”は「背筋を伸ばす」ことをいう。身長測定用の線が引かれた壁の前に立っているのだから、正確を期すためにいろいろ注文が飛ぶ。まずはまっすぐ立たせるはずだ。細かい指示はそれからだろう。

それに続く部分で、マーロウの身長は“Height six feet, one half inch.”と書かれている。

清水訳は「身長六フィート一インチ半」になっているが、“one half inch”は「半インチ」であって、「一インチ半」ではない。村上訳は「身長はおおよそ一八四センチ」、田口訳は「背は六フィート」になっている。細かいことを言うようだが“six feet, one half inch”をメートル法に換算すると「184.15㎝」。村上訳はメートル法に換算するのがお約束なので「身長はおおよそ一八四センチ」とせざるを得ない。ただ原文は正確に“one half inch”となっているので、端数を切り捨てるのはおかしい。田口訳は端から不正確である。

エンディコットがマーロウに言う。“How ingenuous can a man get, Marlowe?”

清水訳は「りこう(傍点三字)なやり方とはいえないじゃないか」。村上訳は「たいしたものじゃないか、マーロウ」。田口訳は「人間というのはどこまで機略縦横になれるものなのか」。“ingenuous”は「純真な、お人好しの、うぶな」という意味で、飾り気のない誠実な態度を言う。直訳すれば「人はどこまで無邪気になれるものだろうな、マーロウ?」。

くだけて訳せば「そこまでやるか?」くらいか。エンディコットの科白は反語表現である。かつて地方検事局に勤めていたこともあるマーロウが無邪気に法を説いて見せるのは、腹に一物あるに決まっていると見ているのだ。清水訳はそこを読み誤っている。一方、田口訳は踏み込み過ぎているように思える。村上訳では何が「たいしたもの」なのかわからない。

エンディコットが「報道?」と訊き返したのに対して、マーロウが「この件で新聞が大騒ぎすると思っていたのに。客が押し寄せるぞって」と答えた部分。

“I expected to make a big noise in the papers out of this. Get lots of business.”

清水訳は「ぼくは特ダネに扱ってもらえると思っていた。お客がふえると思っていたんです」。村上訳は「この件で新聞が騒ぎ立てることを私としては期待していました。だって格好のネタじゃありませんか」。田口訳は「こっちは紙面が大賑わいするようなネタを提供してやろうと思ってたのに。とびきりのネタなんだから」。

“get a lot of business”は「もうかる」という意味だ。なぜ、村上、田口両氏は「格好のネタ」、「とびきりのネタ」のように「もうかる」のが新聞社と考えたのだろう。“publicity”は「宣伝、広告/世間の注目、評判」のことだ。広報業界では「報道」や「メディアへの露出」を意味する。マーロウは投獄されたことについて「私は彼のためにここにいるんじゃない。自分のためにここにいるんだ。文句はない。仕事の一部だ」と言っている。彼にとって今回の事件が大きく報道されれば、探偵仕事の格好の宣伝になる。“Get lots of business”はそのことを言っているのではないだろうか。