HARD BOILED CAFE

ハードボイルド探偵小説に関する本の紹介。チャンドラーの翻訳にまつわるエッセイ等。

2015-07-01から1ヶ月間の記事一覧

『大いなる眠り』第4章(3)

<女はゆっくり身を起こすと上体を左右に揺らすようにして私のほうにやってきた。タイトでどんな光も反射しない黒のドレスを着ていた。長い腿をしていて、およそ本屋では見かけることのないある種特別の歩き方だった。アッシュブロンドの髪に緑の瞳、パイピ…

『大いなる眠り』第4章(2)

<背後でドアが静かにしまり、私は床一面に敷きつめられた厚く青い絨毯の上を歩いていった。青い革の安楽椅子の脇には灰皿スタンドが添えられていた。箔押しされた革装本が数冊、磨き上げられた狭いテーブルの上にブックエンドに挟まれて並んでいた。壁のガ…

『大いなる眠り』第4章(1)

<A・G・ガイガーの店はラス・パルマスに近い大通りの北側に面していた。入口扉は中央の奥まったところに設置され、銅でトリミングされたショーウィンドウがついていた。後ろは中国製の衝立で仕切られているので店の中は見ることができなかった。ウィンド…