HARD BOILED CAFE

ハードボイルド探偵小説に関する本の紹介。チャンドラーの翻訳にまつわるエッセイ等。

2017-09-01から1ヶ月間の記事一覧

『大いなる眠り』註解 第十三章(4)

《エディ・マーズは言った。「こいつが銃を持っていないか調べろ」 金髪が銃身の短い銃を抜き、私に狙いをつけた。ボクサー崩れはぎこちなくにじり寄って来て私のポケットを注意深く探った。イブニング・ドレスを着て退屈している美しいモデルのように、私は…

『大いなる眠り』註解 第十三章(3)

《「厄日かもしれないな。知ってるんだよ、あんたのこと、ミスター・マーズ。ラス・オリンダスのサイプレス・クラブ。華麗なる人々のための華麗なる賭博場。地方警察はあんたの意のままだし、ロサンジェルスのその筋にもたんまりと握らせている。言い変えれ…

『大いなる眠り』註解 第十三章(2)

《カーメンは声を上げて私の横を通り、ドアから駆けだした。坂を下る彼女の足音が急速に消えていった。車は見なかった。多分下の方に停めたのだろう。私は言いかけた。「一体全体どうなってるんだ――」 「放っておけよ」エディ・マーズはため息をついた。「こ…

『大いなる眠り』註解 第十三章(1)

《彼は灰色の男だった。全身灰色。よく磨かれた黒い靴と灰色のサテンのタイに留めたルーレットテーブル・レイアウトのそれを思わせる二つの緋色のダイヤモンドを除いて。シャツは灰色で、柔らかなフランネルのダブル・ブレストのスーツは美しい仕立てだった…