HARD BOILED CAFE

ハードボイルド探偵小説に関する本の紹介。チャンドラーの翻訳にまつわるエッセイ等。

2019-10-01から1ヶ月間の記事一覧

『さらば愛しき女よ』を読み比べるー第28章(2)

階と階とをつなぐ階段は<stairs>。戸口から地面に通じる階段は<steps>。 【訳文】 《彼女はグラスを持って帰ってきた。冷たいグラスを持ったせいで私の指に触る彼女の指まで冷たくなっていた。私はしばらくその指を握り、それからゆっくり放した。顔に陽…

『さらば愛しき女よ』を読み比べるー第28章(1)

「胃」がバントをするなんて聞いたことがない。 【訳文】 《居間には淡い茶色の模様入りのラグ、白と薔薇色の椅子、高い真鍮の薪のせ台のついた黒大理石の暖炉があった。壁には造りつけの背の高い書棚、閉めたベネチアンブラインドの前にはざっくりした地の…

『さらば愛しき女よ』を読み比べるー第27章(2)

「怪物博士」とは、ボリス・カーロフの知名度も落ちたものだ。 【訳文】 「ここを出たら、すぐに逮捕される」彼は厳しく言った。「君は警察官によって正式に収監されたんだ―」「警察官にそんなことはできない」 それは彼を動揺させた。黄色味を帯びた顔に変…

『さらば愛しき女よ』を読み比べるー第27章(1)

ものをいうとき舌を外に出すだろうか? 【訳文】 《そこは診察室だった。狭くもなく、広くもない、簡便で実務的な作りだ。ガラス扉の中に本がぎっしりつまった書架。壁には応急処置用の薬品棚。消毒のすんだ注射針と注射器がずらりと並ぶ、白いエナメルとガ…